なぜここまで厳しい?製薬企業Web講演会におけるスライドチェックの厳格化と今後の展望
2025年7月9日
Xで注目を集めた「スライドチェック問題」
2025年7月、ある医師のX(旧Twitter)アカウントによる投稿が業界内外で大きな反響を呼びました。
この投稿をきっかけに、製薬業界のプロモーションにおける「スライドチェックの在り方」について、改めて議論が巻き起こっています。
なぜスライドチェックはこれほどまでに厳格化されているのか?
その背景には、製薬企業が直面する法的・倫理的・経済的なリスクが複雑に絡んでいます。
1. 課徴金制度の影響
2021年に導入された薬機法改正により、虚偽・誇大広告に対して売上高に応じた「課徴金」が科される制度が始まりました。 (参考:厚生労働省 資料)
過去には数十億円規模の課徴金が科された例もあり、企業側は「表現の揺らぎ」に対しても過敏にならざるを得ない状況です。
2. 講演会=プロモーションとみなされる現実
製薬企業が費用を負担し、特定の医薬品に関する情報を発信する講演会は、第三者から見れば「プロモーション行為」として解釈されます。
このため、講演内容は法規制(薬機法・景表法など)だけでなく、企業倫理に照らしても「中立・公平であること」が強く求められます。
3. 誹謗中傷・適応外使用などへの対応義務
スライドに含まれるリスク要因として、以下のような項目が挙げられます:
- 競合製品への言及や否定的表現
- 未承認の適応症・用法用量の紹介(適応外使用)
- 個人が特定されうる症例紹介
これらはいずれも、行政処分や社会的批判につながりうる重大リスクであり、製薬企業は「事前防止」の責任を負っています。
今、製薬企業と医師に求められる「認識のすり合わせ」
両者が建設的に協力し合うためには、以下のような意識と行動が求められます。
製薬企業側に求められる姿勢
- 指摘理由の説明責任:修正依頼は明確な根拠に基づき、医師に丁寧に説明する
- 過度な介入の抑制:科学的・法的観点から逸脱しない範囲で、医師の表現力を尊重
- チェック担当者の教育:社内・委託先含め、判断基準の標準化と共通理解の構築
医師側に求められる視点
- 講演の「位置づけ」を認識:企業が関与する講演はあくまで法規制の下にある
- 対話姿勢:MRやメディカル部門との協働を通じて、安全かつ効果的な伝達を模索
- エビデンスの裏付け:自身の臨床経験に基づく内容であっても、科学的根拠と合致しているかを常に確認
今後の展望:チェックの質と透明性が問われる時代へ
スライドチェックの厳格化は今後もしばらくは続くでしょう。しかし、それが単なる「検閲」とならないためには、両者の間で「目的の共有」と「対話の深化」が不可欠です。
医師の専門性と製薬企業の社会的責任が調和することで、より信頼性の高い情報発信の場としてWeb講演会の価値が高まっていくことを期待します。
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