『向かい風と追い風』が交錯した2025年の国内業績
MSDのプラシャント・ニカム代表取締役社長は記者会見の冒頭で、2025年の国内業績について振り返りました。2025年の国内における医薬品・ワクチン売上は約3990億円となり、対前年比マイナス16.2%という2ケタ減の厳しい結果となりました。
ニカム社長はこれを『向かい風と追い風が両方あった』と総括しています。
追い風:キイトルーダの圧倒的強さ
業績を牽引したのは、がん免疫療法薬の『キイトルーダ』です。前年比19.2%増と大きく伸長し、国内医療用医薬品で売上1位を獲得する好調ぶりを見せました。
向かい風:主力品の減収要因
一方で、以下の要因が業績を押し下げる『向かい風』となりました。
- 『ジャヌビア』:新薬創出等加算の累積額控除による影響および薬価引下げ
- 『ブリディオン』:特許期間満了および薬価引下げ
- 『シルガード9』:キャッチアップ接種プログラムの終了
- 『ラゲブリオ』:新型コロナ治療薬の需要減少
日本市場に対する『辛辣』かつ期待を込めた提言
ニカム社長の会見で特に注目を集めたのは、日本市場の現状と外部環境に対する率直な意見です。地政学的リスクやトランプ大統領のMFN価格協定など、外部環境の不確実性が高まる中、日本市場に対して以下のような警鐘を鳴らしました。
「日本はこれからも魅力的な市場であり続ける必要がある。イノベーションを届けるための予見性と安定性が重要だ。予見性も安定性もなければ、ビジネス上の判断が非常に難しくなる」
外資系製薬企業トップとしてのこの発言は、頻繁な薬価改定や制度変更が続く日本の医療制度に対する『辛辣なメッセージ』と言えます。ビジネスにおいて「予見性」と「安定性」が欠如すれば、日本への投資優先順位が下がりかねないという危機感の表れです。
しかし同時に、『コマーシャル的な観点でも医薬品の価値がしっかり評価されれば状況が好転する、これをチャンスと捉えて頂きたい』と語り、適切なイノベーション評価が行われることへの期待も滲ませました。
2026年、MSDの成長戦略3本柱
こうした環境下で、MSDは2026年の事業戦略として以下の3点を掲げています。
- 製品およびパイプラインの最大化
- 組織の生産性向上
- 魅力ある市場と外部環境の形成
生成AI活用は『黎明期』、狙うは生産性とWLBの向上
戦略の柱の1つである「組織の生産性向上」において、ニカム社長は『人財と能力に投資する』と強調しました。具体的には、キャリア開発、働き方、デジタル・ケイパビリティの強化を打ち出しています。
特に生成AIの活用については、現状を『黎明期』と冷静に分析しつつも、組織的な導入を強力に推進する構えです。
- ドキュメント翻訳のAI代替による生産性・ワークライフバランスの向上
- コマーシャル部門における医師への情報提供サポートツールとしての活用
- MR等の社内トレーニングでの活用
『医学書を書き換える』強気な開発パイプライン
会見後半では、白沢博満代表取締役会長兼グローバル研究開発本部長から、同社の強力な開発パイプラインについて報告がありました。
2026年中には、適応追加を含めて『最大で8プロジェクトの承認』が確実視されており、データ次第では『8プロジェクト以上の申請』を見込んでいます。すでに2026年2月にはキイトルーダが「頭頸部がんの術前・術後補助療法」で承認を取得、3月にはイドビンソ配合錠が「HIV-1感染症治療薬」として日本で世界初承認されるなど、順調な滑り出しを見せています。
「相当な数の開発品が医学書を書き換え、標準治療になるという、次のフェーズに入ったと感じている。ワクワクしながら医学書を書き換えていくことになる。結果として収益にもつながるステージに入った」
白沢会長のこの発言は、オンコロジー、感染症、免疫、眼科領域におけるMSDの研究開発力への『絶対的な自信』を物語っています。リスク非調整ながら、2030年代半ばにはグローバルで総額700億ドル規模の売上ポテンシャルを見込んでいるとのことです。
まとめ:MSDのリアルとこれからの展望
今回の記者会見から見えてきたMSDの『リアル』は、主力品の特許切れや薬価引き下げという逆風を受けつつも、最強の主力品キイトルーダと次世代の強力なパイプラインで攻めの姿勢を崩さない強靭な企業体質です。
日本市場に対して「予見性と安定性」を強く求めるニカム社長の姿勢は、革新的な新薬を日本に届け続けるための『本気の訴え』です。AIを駆使した組織の生産性向上と、医学書を書き換えるレベルのイノベーションの融合により、MSDが今後日本市場でどのような価値を提供していくのか、大きな期待が寄せられます。

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